サブリースによるトラブルは入居者にも被害が拡大中か? (及川修平 司法書士)

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司法書士である私の事務所には、賃貸住宅に関する相談が多く持ち込まれる。なかでも最近、「家賃の値上げを突然要求されて困っている」という相談が立て続けに寄せられた。

どれも契約の更新を機会に、不動産業者から「家賃の値上げをすることになった」という通知書と、値上げに同意する書類にサインして返送するよう求めるものだった。
通知書は、さも家賃の値上げが決定事項であるかのような文面となっている。

突然このような文書が送られてくると入居者としては戸惑うだろう。なかには、家賃の値上げに応じなければ契約を打ち切られ住宅を追い出されると考え、しぶしぶ同意書にサインをしてしまう方もいるかもしれない。

しかし結論から言えば、不動産業者からの一方的な値上げ要求を即座に応じる必要はない。まずは要求が法律的な根拠に基づいてなされているか、しっかり見極める必要がある。

家賃の値上げができる場合にはルールがあるが……

家賃の値上げを要求できるケースは法律で定められている。

(1)租税などの負担の増加、(2)土地や建物の価格の上昇その他の経済事情の変化、(3)近隣の同種の建物に比べて家賃が不相当になった場合だ。

この法律がやっかいなのは「家賃が値上げできる場合」が規定されているだけで、適正家賃の計算方法が規定されているわけではないことだ。
結局、いくらの値上げが妥当かは事案によってそれぞれ違う、ということになる。

家主と入居者との間でまずは話し合いになるが、合意に至らない場合は調停や訴訟といった裁判手続きで決着をつけることになる。この裁判がなかなか難しいもので、適正な値上げ額を証明するために鑑定資料の提出が求められる。もちろん、鑑定の資料をそろえるのはタダというわけにはいかない。不動産業者や不動産鑑定士などの専門家に委託するために費用も安くはない。

このように、家賃の値上げを正攻法にやろうとすると時間もお金もかかる。家主側としては、テナントなどの大口契約であればまだしも、住宅の契約について費用を投じ裁判をしてまで値上げをすることは費用対効果の観点から難しいところだ。

このような背景もあり、裁判をするよりも入居者から了解を取り付ければ早いということで、冒頭のような、言うなればだまし討ちに近い形で同意書を取り付けることになる。

サブリース契約で今何が起こっているか

家賃の値上げをめぐって大家と入居者が対立することは決して珍しいトラブルではないが、私が最近受けた相談はすべてサブリース契約の物件に関するものだった。サブリース契約とは、業者が物件のオーナーから賃貸アパートなどを一括で借り上げ、入居者に又貸しする契約のことだ。

オーナーは物件をまとめて借り上げてもらえる分、一定の家賃収入が見込めることもあり、不動産投資の形態として以前からあったものだ。だがここ数年トラブルとなるケースが報じられている。

内容としては、サブリース業者がオーナーに対して支払う家賃について、契約期間中は変動しないと考えていたところ、実は状況に応じて減額される契約だったことに気づき、家賃の設定をめぐって争いとなるというものだ。なかにはオーナーに対して支払う家賃を強引に引き下げたとして訴訟に発展しているケースもある。

このような状況を受け、今年3月には国土交通省、金融庁、消費者庁が連携し、注意喚起を行う事態にまで発展していている。

サブリース契約のケースではこれから問題となる可能性もある

サブリース業者としては、収益を改善するにはオーナーに対する家賃支払いを減らすか、又貸ししている入居者に対する賃料を増額するか2つの選択を迫られる。オーナーと家賃設定をめぐってトラブルとなっていることは以上のとおりだが、冒頭で述べた相談のケースは、家賃をめぐるトラブルのいわば入居者版というわけだ。

家賃の増額をめぐっては、法律的に正規のやり方ではコスト的に合わないとなれば、強引に家賃設定の変更を求めるケースが今後増えてくるかもしれない。

サブリース業者が増加するコストを吸収できずに破たんするようなことが相次げば、入居者としても大なり小なり面倒なことに巻き込まれることになる。例えば、契約内容によっては家主とサブリース業者との契約が解除されると、入居者が立ち退きを迫られることもある。

入居者としてもしっかりとした管理のある物件を望むのであれば適正な対価は必要となる。何でもかんでも値上げに反対すればいいというわけではないが、問題となるのは、値上げについてしっかりとした説明と金額の根拠だ。

入居者としては、サブリース業者の提示する家賃設定を承諾しないと退去せざるを得ないなどということはない。まずはしっかりと時間をかけて情報収集にあたるべきだ。近隣の同種の物件などと比較して、家賃の設定について協議をするか、または退去して新しい物件を求めるか、検討してみるといいだろう。

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