三菱自動車の燃費偽装は裁判するとどうなるか(及川修平 司法書士)
三菱自動車の燃費不正問題について、購入代金返還求めて被害者弁護団立ち上げられたと報じられた。
改ざんのあった三菱の「eKワゴン」日産の「デイズ」など4車種、あわせて62万5000台について、弁護団は、新車で購入し、現在も保有している個人を対象に消費者契約法に基づき契約の取り消しと購入代金の返還を求めていくといいます。
三菱自動車に購入代金返還求める 被害者弁護団立ち上げ 2016/8/2 毎日放送
三菱自動車の燃費偽装問題で弁護団が結成されたのは全国初めてとのことで、今後、この問題は法廷の場で争われることになる可能性が出てきた。
三菱自動車が発表した補償は十分なのか
この問題についてはすでに、三菱自動車や三菱自動車からOEM提供を受けて軽自動車を販売している日産自動車は、該当する自動車のオーナーに対して、一台あたり10万円の補償をすると発表している。なお、残価設定型クレジットおよびリースの契約をしているケースについては、契約年数に1万円を乗じた金額を補償するという。
三菱自動車や日産自動車としては、燃費偽装によって被ったガソリン代などの損害は十分にカバーできるという考えだ。
ところが、これで該当車種のオーナーが納得するかどうか。
オーナーの多くが気にするのは、燃費が偽装されたことで自動車の資産価値が減少した分、いわゆる評価損は補償してもらえないのかということだろう。
自動車事故のケースでは格落ち(評価損)はどのように補償されるか
今回の燃費偽装という問題は前代未聞のことで、このようなケースがこれまでに裁判で争われたことはない。
しかし、評価損についてどのように賠償されるかという点が度々裁判で争われることがある。自動車事故のケースだ。
事故によって自動車に損傷があった場合、事故の程度によっては修復不可能なキズが残ったり、また主要な骨格の部分の損傷があったりすると、自動車を売却したり下取りに出したりする際は、価格が安くなってしまう。つまり、自動車の資産価値が下落することになるわけで、これを評価損という。よく格落ちなどとも言われる。
自動車事故による評価損が損害金として認められるかどうかについては明確な基準があるわけではないが、裁判例をみると、新車登録してから新しい車が交通事故で損害を受けたケースで評価損をて認めているケースがある。
該当車種のオーナーは多くいるが、特に今回の燃費偽装問題に該当する車を購入したばかりの人は、買った直後に大きく資産価値を失うことになるわけだからたまったものではない、10万円で納得できるか、という気持ちだろう。
三菱自動車は買取を希望する顧客に対しては個別に対応すると報じられている。対応次第では、評価損を損害として賠償してもらえることになるかもしれないが、買取の対象と想定しているのがどの範囲かということについては明確な基準は発表されていない。
裁判ではどうなる?
今回報じられたニュースによると弁護団では自動車の販売の契約を取り消すという。
ただし、仮に裁判で争われたとして、契約の取り消しが認めれたとしても、購入代金全額が戻ってくるという結論になるかどうかは不透明だ。燃費の表示に偽装があったとしても、それまで自動車として全く使えなかったわけではないからだ。損害額を計算するときに、「自動車として使用できていたことで受けていたメリット」を金額として換算して、損害額から引かれてしまう可能性は十分ある。
このあたりの問題は裁判が進んでから明らかとなるだろうが、最善は訴訟で争われる前に三菱自動車や日産自動車から納得のいく買取の条件が示されることだろう。
三菱自動車や日産自動車はすでに販売を再開している。顧客の信頼を取り戻すために顧客を第一に考えた対応が示されるか。今後も注目である。