子供が賃貸住宅のクロスに落書きをしてしまったときに知っておくべきこと(及川修平 司法書士)

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3月から4月にかけて引っ越しをしたという方も多いと思う。4月も下旬となり、それまで住んでいた賃貸住宅の退去時の清算がはじまる時期だ。

普通の住まい方をしていた場合、修繕にかかる費用は入居者の負担とならないとされているが、本日取り上げるのは、入居者の落ち度で部屋を汚しているケースだ。

日ごろ退去時の清算に関する相談を受けるなかで度々あるのが、子供のいる家庭で「子供がクロスに落書きをしている」というもの。

この場合、入居者はどうような責任を負うことになるだろうか。

子供の落書きは、賃貸住宅の「通常の使い方」といえるか

子供がクロスに落書きをしていた場合、なかには「子供なんだからちょっと落書きするくらいのことはある、普通の使い方の範囲なんじゃないか」などと考える人もいる。

が、これは通用しない。

賃貸住宅の契約では、入居者は「他人」の所有する物件を「借りて」住んでいるので、当然だが、いずれは返却することが前提となっている。そうすると、普通の使い方とは何かを考える際に自分基準でOKというわけにはいかない。子供の落書きは、入居者の不注意による損害とされることが多いだろう。

では、子供の落書きは入居者の責任となるので、家主から修繕費用の請求があった場合、全額を負担するべきだろうか。

結論からいうと、そうはならないこともあるので注意が必要だ。

「入居者に責任があるかどうか」と「いくらを負担するべきか」は切り離して考える必要がある

入居者としては、自分に落ち度があった場合は負い目を感じることだろう、請求額を全額支払わなければならないと考えてしまいがちだ。

しかし、ここでは自分がいくらの負担をするべきかしっかり確認をする必要がある。

「責任があるかどうか」という点と「いくら賠償しなければならないか」という点は切り分けて考える必要があるのだ。

賠償する額は「現存する価値まで」でよい

賃貸住宅として普通の使用をしていれば、クロスや畳や日焼けすることもあるだろうし、賃貸住宅内のあらゆるものは少しずつ古くなっていく。新品同様の状態を維持し続けるなどということは不可能だ。このように物の価値は少しずつ下がっていく。いわゆる「減価償却」と言われるものだ。

入居者が負担すべき賠償額を計算するときは、この減価償却を考慮して「退去の時点で残っている価値まで」でよいとされている。

この減価償却された部分を無視して、新品同様の状態まで戻す費用を入居者が負担すべきとするなら、その分、大家さんが得をする結果となってしまうからだ。

そもそも、入居者は、この償却されていく分について、月々の家賃という形ですでに支払いをしている。

例えば、月額7万円の家賃だったとして、10年間入居をしていたとしよう。10年の間に負担した家賃は合計で840万円になる。10年間で償却された部分はこの840万円の中に十分含まれているはずだ。言い換えれば、大家さんとしても元をとっている部分があるということになる。

この点を意識すれば、仮に子供が落書きをしてしまったからといって、クロスの張替え費用全額を請求されるのであれば、その請求は過大であることがわかるだろう。

賃貸住宅の退去時の清算をめぐってトラブルとなる例が多いことから、国土交通省は、ガイドラインを発表している(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)。そのなかでもこの減価償却の考え方が取り入れられている。

このガイドラインでは、クロスは入居から6年経つとほとんど償却され残存価値は1円となるとされている。このガイドラインの基準でいうと、クロスに落書きをしてしまったことで責任を取るべきだとしても、入居から6年以上が経過していれば、ほとんど賠償の対象にはならない、ということになる。

まとめ

この「減価償却」については、家主側にも入居者側にもしっかり認識されていないように思う。賃貸住宅の退去時の清算の際には、自分の不注意があったようなケースでも、賠償額はいくらとなるか、まずはしっかりと確認する必要がある。

もちろん、誤解のないように言っておくが「減価償却をするから何をやっても許される」ということではない。ガイドラインで示された基準は基本的な考え方を示すもので、すべてのケースであてはまるというわけではない。ガイドライン中においても、償却しているとはいえ継続して使用可能である場合は落書きを消すよう求められることもあり得ると注意書きをしている。こうなると修繕の費用はまた違ったものになってくる。

それぞれのケースで傷の状態や修繕の方法をしっかり確認することも大切だ。

引っ越し後の賃貸住宅の清算が多くなる時期であるので、参考になれば幸いである。

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