刑事事件に発展する前に「騒音トラブル」解決策を知る。
「生活音が気になった」包丁で隣人切りつけ 容疑の64歳男逮捕/川口署
埼玉新聞 1月12日(月)10時20分配信
先日、「生活音が気になった」としてアパートの隣人の住人を切りつけ逮捕される事件があり、ニュースとなった。
このアパート・マンションの騒音をめぐるトラブルというのは、今回のように傷害事件、ケースによっては殺人事件に発展することさえある。
騒音というと昨年にも保育園・幼稚園は騒音なのか、という議論もあったところだ。騒音というのは人の感じ方の問題であるので、一定の基準を作ればそれで解決…というわけにはいかない、難しい問題である。
今日は、近隣の騒音問題について、法律的な視点での考え方や対処法を紹介する。
騒音問題については、「受忍限度」があるということを知る。
人と人が集まって生活をする以上、音を出さずに生活をする…ということはできない。「受忍限度」とは文字通り、「生活をする上でどうしても防げない音についてどこまで我慢するべきか」ということだ。
騒音の問題で裁判となった場合、裁判所としては、この「受忍限度を超えているか否か」を検討の上、責任の所在を明らかとしていこうとする。
「受忍限度」に法律上の基準というものはない。過去の裁判例をみると次のような事情を検討しているものがある。
1 どのような音か。生活をする上で避けることができないもの(例えば部屋の中を歩く音や掃除・洗濯をする際の音なのか)、それとも生活音以外の音(ピアノの音など)なのか。
2 音の発生する時間帯(日中なのか深夜なのか)やその音が長時間にわたっているかどうか。
3 音についてどのような配慮をしているか。例えば、音が響くのを防ぐためにカーペットを引くなどの配慮をしているかどうか。
このような事情を検討しながら、裁判所は「受忍限度」を超えるかどうかをケースごとに判断するのだ。
「受忍限度」ってどうやって決めるのか?
では裁判所は、どのような方法で受忍限度を超えるかどうかを判断するか。
裁判の手続のなかで「検証」という手続を行う場合がある。裁判官が騒音をどのように感じるか、現場に出向いて確認をしようとするのだ。
裁判例によっては、問題となっている物件を実際に歩いたりスキップしたりしてどのような音として聞こえるか、実験をやっている例もある。その時の状況を判断材料にしていくのだ。
もちろん騒音に関する裁判ですべてこのような手続きを行うわけではないが、一つの参考になるだろう。
賃貸アパート・マンションの場合の騒音の受忍限度とは?
さて、騒音トラブルは、賃貸アパート・マンションでももちろん起こる問題だ。ある部屋から騒音が発生しているが、大家さんに苦情を言っても対処してくれない…として、入居者と大家さんとの間でトラブルとなることもある。
明確な裁判例があるわけではないが、賃貸マンションにおける騒音を考える際、物件の種類や構造などもこの受忍限度を考える一つの要素になるはずだ。
木造や軽量鉄骨のアパートは、鉄筋コンクリート造のマンションと比べてどうだろうか。日常生活で発生する音であっても、鉄筋コンクリートと木造とでは、音の伝わり方が全く違うのだ。当然、木造物件でトラブルとなったとしても、鉄筋コンクリート造の物件と同等の防音性を求めるのは無理があるだろう。つまり受忍限度は大きくなると考えられる。家賃の設定(家賃が高いか安いか)も含めて、どこまでが受忍限度となるか、総合的な判断となるだろう。
騒音トラブル対処法1 賃貸物件に入居するときの注意点
私の事務所に持ち込まれる相談の中で「賃貸マンションを借りようとしているのですが、気を付けることはありますか?」というものがある。もちろん賃貸住宅の契約内容についての注意点や退去をする際のトラブルなどのご紹介はするのだが、それに加えて騒音の問題についてもお話をするようにしている。
「仲介を依頼する不動産業者に対しては、これから借りようとしている物件について過去に騒音に関するトラブルがあったかどうかを尋ねてみてください。それを仲介の申込書に要望事項として記載しておいてください。」とアドバイスしている。
アパートやマンションというのは、実際に入居してみないと生活の状況というのはわからないものだ。騒音に関することも入居してみないと本当のところはわからない。
しかし、過去にそのようなトラブルがあった物件であれば、同じ問題に巻き込まれる可能性もある。過去のトラブルを確認しておくことで、万全じゃないとしてもリスクを減らすことはできるのではないかと考えている。
さらに書面として残しておく…ということで、入居者が仲介を依頼する際に求めていた条件を明確にすることができる。トラブルとなった場合には、「証拠」として活用できることもあるのだ。これについては、こちらの記事も参考にして欲しい(「賃貸住宅を退去するときは「裁判」を意識して書類にサインをする」)。
騒音トラブル対処法2 騒音に関する問題をどう話し合うか?
騒音に関するトラブルというのは、近隣の者同士でのトラブルなのだ。今後の生活のことを考えると、いきなり訴訟という手段に打って出るのは躊躇するだろう。
まずは当事者同士で話し合いをする…ということから始まるだろうが、それでもうまくいない場合、裁判所では調停という手続もある。
要は裁判所で行う話し合いだ。調停には調停委員が参加して話し合いを行う。
調停委員には専門家が選任されることがあり、騒音トラブルなどで言えば、例えば建築士などが参加することがある。自分で専門家に意見を求めると費用的な負担が大きくなることもあるが、調停では手続の申立費用だけで済む。専門家の意見を聞きながら問題解決にあたることができるのだ。
【関連記事】
■結局、敷金は返してもらえるのか?
■裁判官も巻き込まれる賃貸住宅の清算トラブル
■引越しシーズンは、賃貸の契約・敷金(退去時の原状回復)の清算に注意しましょう!
■それでも続く賃貸住宅の保証人問題
■高齢者の悪質商法被害を防ぐには?成年後見制度は機能するか?