相続の法律改正があると後妻業はどうなるか考えてみた (及川修平 司法書士)
「後妻業の女」という映画が上映されていて話題を呼んでいる。
映画では「後妻業」というのは、資産のある高齢の男性と結婚して後妻となり、その資産の相続を狙う者として描かれている。ターゲットとなる男性は「資産があること、持病があればなおよい」などと露骨に資産目当てにされていて、相続をめぐるトラブルがコメディータッチで描かれている。
熟年結婚が増えると何が起こるか
主人公の大竹しのぶさんが演じる小夜子の相手は、再婚後数年のうちに亡くなっていき、過去9人もの夫がいるという設定になっているが、もちろんこのようなことは現実の世界ではそうそうあるものではない。
しかし、映画でも紹介されているとおり、熟年者同士で再婚をするという例は珍しいことではなくなった。
結婚というと、大なり小なり当人同士のほかにその家族との関係がくっついてくるわけだが、熟年結婚ともなれば、それぞれ子供がいるような場合も多い。
このような場合では、「後妻業の女」ほどではないにしても、「相続」という場面で大きな問題を抱えることになる。現在の法律では配偶者の相続の取り分は2分の1となっているのだが、子供からすれば、突然再婚をした相手に取り分を半分持っていかれるのは納得がいかない…ということもあるだろう。
相続をめぐる法律の改正があるかも?
ところで現在この「相続」をめぐる法律が大きく改正されようとしている。
法律改正のコンセプトは「残された配偶者の保護の充実を図ろう」というものだ。
現在の法律では、例えば子供らと一緒に相続をするようなケースでは、先ほども紹介したとおり、配偶者の取り分は2分の1となっている。しかし、これではケースによっては配偶者の相続分としては少なすぎるのではないか…などと問題視する意見があって、これが改正議論の契機となった。
相続の場面で「配偶者」といっても、長年結婚を続けた夫婦もいれば、今回の後妻業のように結婚期間が短い場合もある。現在の法律では、様々な夫婦の形があるのに、相続の際の取り分を一緒くたに扱うのは問題じゃないか…というわけだ。
先ほど熟年結婚が増えれば相続をめぐってトラブルとなるケースが出てくるかもしれないと書いたが、法律の改正は果たしてどのような内容となっているか。少し見てみよう。
相続はこう変わる?検討されている案とは?
いくつかの案が検討されているが、そのなかには結婚して20年経つと配偶者の相続分をアップさせようという案がある。長きにわたって結婚生活を続けていれば、資産形成に貢献しているのだから、取り分を増やしてあげるべきだろう…というわけだ。
では籍は入っているけど実は仮面夫婦で、配偶者の相続分をアップさせたくない…という人がいたらどうするか、なとどいう設定もしっかり想定して議論がされていて、20年経った段階で夫婦が相続分をアップさせるという「合意」を必要とするという案も用意されている。
嫌なら合意をしなければよいということわけだ(それはそれでこれまでには無かった新たな夫婦の問題を生みそうではあるのだが…)。
このような案のほか幾つかの案が示されていて、検討が続いている。
後妻業にどのような影響が?
さて、このような改正があると、後妻業は得をするか?
今回の法律改正のコンセプトは、長年結婚関係にあった配偶者の保護をどのようにして図るかということなので、結論から言えば、後妻業として悪事を働く人にとっては相続分がアップするという恩恵を受けることはできないということになる。
映画では再婚をして後妻となる以外にも、遺産を総取りするべく遺言書を書かせるなどいろいろなことをやっているので、詳しくは映画をご覧いただきたいと思うが、今回は基本となる相続分がどうなるかという点にスポットを当てて紹介してみた。
配偶者になぜ相続権があるかというと、結婚生活の中において二人で築き上げてきた財産を清算するという意味と、残された配偶者の生活の保障をする意味があるといわれている。
熟年結婚を利用して悪事を働こうとする後妻業などという存在は、そうそうあるわけではないだろうが、熟年結婚が増え、夫婦のあり方が変化をしてきているのは確かだ。
そのような中で「相続」という場面がどのようなものになるか。注目である。