結局、敷金は返還されるのか?法律の改正で賃貸住宅の契約はどう変わる?
先日、およそ120年ぶりに民法という法律が大幅に改正されるというニュースが報じられた。民法というのは、平たくいうと、様々な取引関係について基本となるルールを定めている法律だ。
改正される項目は多岐にわたるが、今回取り上げる賃貸住宅の契約に関する分野については、ニュースのなかで「あいまいであった敷金の返還義務が明確になる」とか、「入居者は通常の生活で発生した毀損については原状回復義務を負わない」、などという言葉が飛び交っている。
はたして、民法が改正されると賃貸住宅契約にまつわる法律はどのように変わるのか?トラブルは終息することになるのだろうか?
■賃貸住宅の契約をめぐるトラブルの現状
国民生活センターの2011年度のデータでは、賃貸マンション・アパートをめぐる相談件数は、全体の3位を占める。その相談の中でもとりわけ多いのが、賃貸マンション・アパートを退去する際のリフォーム費用を誰が負担するかという清算をめぐる問題、つまり敷金の清算や原状回復をめぐるトラブルであると言っていいだろう。
このトラブルは、ここ数年特に問題となってきたというものではなく、ずっと以前からあるものだ。ではこれまで「敷金」や「原状回復」とはどのようなルールとなっていたのか?
■「敷金の定義」や「入居者は通常の使用による汚れなどについては原状回復義務を負わない」というルールはこれまでもあり、目新たしいものではない。
確かにこれまで敷金というものの定義は、法律のなかに規定されていなかった。原状回復義務の法律上の定義についても「(入居者は)取り付けたものを撤去することができる」といった義務なのか権利なのかよくわからない、あいまいな規定となっていたのは事実である。しかし法規制ではなかったものの、いわば公的なルールは存在した。さらに裁判実務上の定義づけというものも確立されたものが従来からあったのだ。
トラブルが多発する状況に行政が何も手を打ってこなかったわけではない。旧建設省では平成5年には「賃貸住宅標準契約書」を作成し、敷金・原状回復などのルールの標準化を図ろうとしてきた。平成10年には退去時の清算についてトラブルが多いことを受け「建設省が賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を作成し、この問題に対する基準を示し広く公表しているのだ。
また裁判上の話をするならば、賃貸住宅標準契約書などができる以前から敷金といえば入居者が担保目的で大家さんに預けるお金という意味で確立していた。原状回復義務という言葉についても入居者がわざとまたは不注意で汚したり傷つけたりしたものを賠償するという意味で用いられ、入居者は通常の生活で発生した毀損については原状回復義務を負わないとされていた。
定義づけがぶれているから争いになっていた…ということはあったのかもしれないが、それは問題の本質ではない。ポイントは別のところにある。
■敷金の清算のトラブルの多くは「特約」の存在をめぐる争い
大家さんは、契約書のなかに敷金の清算について特約を定めていることが多い。この特約とは、本来であれば入居者の負担とはならない費用を例外的に敷金から差し引こうとする特約なのだが、この特約がよくトラブルのもとになる。
ひとつ例をあげてみよう。こんな特約があった場合、どうであろうか。
「賃借人は、明け渡しの際に、故意または過失による汚損・毀損であると問わず、修繕をする義務を負う」
大家さんとしてはこの特約があるからリフォームにかかる費用の全額を請求できると考える。一方で、入居者としてはそれまで普通に何ら不都合なく生活できていたのだから特に修繕をする必要なんてないだろう、などと考える。大家さん(実際には大家さんから委託を受けた不動産業者)が持ち込もうとする、このような特約の解釈のあり方で発生するトラブルだ。
では、退去時に要する費用を定額にしておけばよいのではないか…などの意見もあるが、そう簡単な話でもない。
一部の地域では「敷引特約」が有効かどうかという点でずっと争いとなってきた。敷引特約とは、例えば敷金3ヶ月、退去時には理由の如何を問わず2か月分は返しません…といった特約のことで、大家さんが敷金の中から主にリフォーム費用にあてる金銭を定額化して徴集しようとする特約のことだ。
これについては、平成23年に出された最高裁判所の判決で敷引特約は有効であるとされ一応の解決をみた。それでもこの判決以降も未だに敷金の清算をめぐるトラブルとなるケースが減少してはいない。昨今の賃貸借市場の変化から敷金の額の設定金額自体が減少傾向にあるなか、大家さんによっては敷引額ではリフォームに要する費用が不足するから敷引金以上の金銭の要求をするというケースも少なくない。そもそもリフォームに要する金銭を敷引金とは別に徴収してもよいのではないか、と考えている大家さんもいるからだ。
これは敷金の清算の特約として、一見分かりやすい敷引などのルールをもってしてもトラブル解決にはならないということを意味している。
■敷金の清算をめぐるトラブルを終息させるには
今年8月に出された民法の改正案は、以前からあったルールを法律の条文に書き込もうとしている程度のものだ。特約を定めてはいけないという規定は改正案に盛り込まれてはいない。これでは現状と何も変わらない。
今回民法が改正されたとしても「抜け道となるような特約は許さない」という点をはっきりさせなければ、トラブルの終息とはならないのではないか。
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