「車離れ社会」では「自動運転」というネーミングは止めるべきである(司法書士及川修平)
運転支援機能を搭載した日産のミニバン「セレナ」を試乗した客にブレーキを踏まないよう指示して事故を起こしたとして、千葉県警交通捜査課と八千代署は14日、八千代市内の日産自動車販売店の店長男性(46)と同店の営業社員男性(28)を業務上過失傷害容疑で、試乗した客のトラック運転手男性(38)を自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで、千葉地検に書類送検した。2017/4/14 千葉日報オンライン日産は同一車線自動運転などと宣伝をしているが、前方車両との車間距離を保ち車線に沿って自動でハンドル操作を行うという機能だ。ニュースによると、事故当時は夕方で雨が降るなどあまり良い条件ではなく、うまく動作せずに前方車両と衝突してしまったようだ。
もし私自身が試乗をしていて、隣に座る販売員から「ブレーキを我慢して」という指示が飛んでいたとしたら…。ビビリの私はサッとブレーキを踏んでいるかもしれないと思いつつ、100パーセント事故を回避できたなどと言い切れる自信はない。これは誰にでも起こり得たことだったろう。
クルーズコントロールの使用感とは?
昨年、私自身も自動車を買い換え、日産ではないが、追従型のクルーズコントロール機能のついた自動車にしている。私の購入したものは時速30キロ以上で走行をしないと機能しないもので、試乗は一般道のみだったこともあり、販売員とともに試すということはなかった。取扱説明書を読み、実践のなかで身をもって理解していった。
前方車両との車間距離は自由に設定できるが、設定した距離に入ると、わりと強くブレーキがかかる。強くというと語弊があるかもしれないが、自分で運転していれば、最初はエンジンブレーキを効かせながら緩やかに減速し、それからフットブレーキを使うが、クルーズコントロールでは設定した距離に入るまで緩やかに減速をするという動作をしない分、強くブレーキがかかるように感じるのだ。慣れてしまえば何ということはないのだが、最初のころはとても違和感があった。
このような体験もあり、冒頭のニュースの事例でセールスマンから「我慢してください」という指示が出たのもわからなくもない。
またカーブなどでは状況に応じて減速して欲しいところだが、設定した速度のまま走行してしまうし、隣のレーンから急に割り込んでくる車が来たときのことを考えると、一般道ではとても使う気にはなれない。使用できる場面は、交通量が少ない高速道路に限られると考えている。
ところで、クルーズコントロールを使用してる際の右足をどこにおいておくか、ということも気になる点だ。いざという時に素早くブレーキを踏めるようにするは、ブレーキペダルに右足をセットしておくべきなのだろうか。フロアマットに足をベタ付けしていたり、足を投げ出してブレーキやアクエルのペダルの下にやっていたりすると、ブレーキ操作が一瞬でも遅れてしまうかもしれないと思う。
このような使用感は、自分なりに使いこなす過程の中で自分なりに感じられることだろう。
このクルーズコントロールという機能、高速道路を使って長距離移動をするときなどは、疲労を軽減させてくれるなかなか優れた機能だなと思ったが、当初イメージしていたものより、よりドライバー主体の機能であるという感想を持った。
消費者は機能を正確に理解しているか
一言でクルーズコントロールの機能といっても、機能は各メーカーでそれぞれ違う。前方車両との車間距離を保ってくれるものもあれば、単に設定した速度で走行するだけのものもある。車線に沿ってハンドル操作を補助してくれるものもあれば、ハンドル操作は自分で行わないといけないものある、といった具合だ。
冒頭で書いた事故を受けて、国土交通省は、急遽、「現在実用化されている「自動運転」機能は、完全な自動運転ではありません!!」と題するプレスリリースは発表し、クルーズコントロールの機能や注意点を確認するよう呼び掛けている。
クルーズコントロール自体が新しく普及し始めた機能であるし、またメーカーの機能の違いともなると、まだ消費者にしっかりとした知識が備わっているとはいえないのが現状だ。
消費者は何を根拠に購入している?
自動車などの工業製品に対して、個人差はあるものの、消費者にはどうしても十分な知識があるとは言い難い。クルーズコントロールの機能といった新しい技術については尚更だ。クルーズコントロールの機能や使用感といったものは、自分で使いこなしてみて初めて理解できるものだが、インターネット上の様々なサイトの書き込みや自動車評論家などの記事を丁寧に追いかけていると、実際に使う前にもそれなりに掴むことができる。
自動車の購入を検討している場合、契約をする前に自分なりに情報収集をしてみるとわかることが多いのだが、車好きであればともかく、そこまで注意を払わないという人も多いかもしれない。
そうなると、消費者は、何を根拠に「購入する」という意思決定を行うのだろうか。
私は、イメージや安心感といった主観的な判断基準で物を買ってしまう傾向にあると考えている。
自分なりに情報収集をしていない場合、テレビCMのイメージやセールスマンから語られる情報だけをもとに、それが正しい情報かどうかを検証することなく購入を決意するだろう。そこでは、「大手企業だから安心だろう」とか「このセールスマンは真面目そうに見えるし、安心だろう」などという、主観的な要素が大きなウエイトを占めているはずだ。
「やっちゃえ日産」のCMをイメージが最初にあった
私は車が趣味というわけでもなく、特に詳しいわけではないので、真っ先に飛び込んで来たクルーズコントロール機能のイメージは、矢沢永吉さんが運転席で手放し運転している自動運転技術のCMや日産自動車が使っている「自動運転」という言葉だ。テレビをぼんやり眺めながら「このようなことまでできるようになったか」と思ったことを今でも覚えているが、車を購入する段になって、あれこれと調べているうちにCM上の演出だったんだなとわかった。
「自動運転」などと言われると、カーナビに行き先をセットしておけばあとは自動で連れて行ってくれる…とまではいわないものの、ある程度、運転を車に委ねることができるものと思っても不思議ではない響きがある。しかし、そこまでのものではない。イメージ以上にドライバーの運転が主体的なもので、この機能はあくまでそれを補助するものだ。
クルーズコントロールの機能については、使いながら、このようなイメージの修正を図る必要があった。
「誠実そうに見える販売員」は信じて大丈夫か
もちろん、真面目そうにみえる販売員から真実が語られるとは限らない。販売員の最大の目標は契約を取ることであり、そのためには目の前にいる顧客に「安心」してもらう必要がある。そうすると、ネガティブな情報は語られにくい。つまり、「セールストーク」イコール「商品説明」ではないということだ。重要な取引の中には、重要事項の説明を法的に義務付けているものがある。例えば、不動産取引などだ。
不動産業者が不動産売買の仲介を行う際、宅建業法という法律で売買契約を行う前に契約に関する重要事項の説明をすることが義務付けられている。重要事項の説明の中では、法令上の制限のほかにも、物件に瑕疵があればそれも説明をしなければならない。そのようなネガティブな情報は隠されてしまう傾向にあるため、法が情報の開示を義務づけているわけだ。
冒頭で触れた事故は、本来正確な商品知識を与えなければならない立場にある販売員が機能を過信したことが発端となった事故であるからこそ、申告な事態といえる。
車離れが進んだ社会では、過度に作られたイメージは危険
現在では、車は一家に一台所有するものではなくなった。カーシェアなど、自動車を所有することなく利用することが簡単にできる時代だ。一台の車をじっくり使い込むという意識が希薄になりつつある今、新しく登場する自動車の機能については、「たまたま借りた車についていた機能」となりえるのだ。
このように自動車の利用の方法は多様化が進む。先ほども述べたが、クルーズコントロールの機能について、各メーカーの違いまで正確に把握している消費者は少ないのが現状だ。このような状況を考えたとき、「自動運転」などという誤解を招く表現を安易に使うべきではない。一つのメーカーのある商品の呼称に過ぎないという説明は通用しない。利用を誤れば、ときに命に関わるからだ。
現在のクルーズコントロールは、完全な自動運転とは言えない現状の機能であっても、ドライバーの負担軽減させてくれる素晴らしい機能であると思う。それをありのまま伝えるべき表現を考えるべきで、利用者が誤解をしないようなネーミングやイメージの作り方にするべきだ。