司法書士が見た、一軒家の建築でトラブルに陥る人達(司法書士 及川修平)

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私は福岡市内で司法書士事務所を開設しトラブルに関する相談にあたっている。このところ、注文住宅の契約をめぐるトラブルの相談をいくつか受ける機会があった。

トラブル解決を進めていくと、不透明な契約形態がトラブルの原因となっている実態が見えてきた。

マイホームの購入というと、マンションか一戸建てか、新築か中古なのかなど、家庭の事情に合わせて検討しながら話を進めていく。なかでも一戸建ての注文住宅ということになると施工会社と綿密な打ち合わせをすることになる。

よく相談を受けるトラブルとは設計段階で業者の対応や図面の内容について意見が合わず、契約を中止する事態になった時だ。

設計段階で契約をやめることはできる?

一般的に注文住宅の契約では、まずは住宅の設計を行い、設計が完了したのちに建築という流れになる。

設計段階で契約を中止したいと考える理由は様々だが、契約前に希望していたことが実現できないことは判明したということもあれば、業者の対応が悪く、ろくに連絡も繋がらない…と、色々だ。 マイホームを建てるのは、莫大な予算を要するもので、決して安い買い物ではない。設計段階でつまずけば多額の予算を投じてよいものか不安になり、契約を断念したいと考える人も当然いるだろう。

ところが一度契約をしてしまうと解除が難しい契約形態となっていることことがトラブルの原因だ。

トラブルとなる清算ルールとは?

設計段階で契約を中止した場合、契約をどのように清算するかは契約条項を確認する必要がある。それまで進めてきた設計の度合いに応じた料金の支払いをすればいいと考えがちだが、実際の契約ではそうはなっていないことが多い。

相談を受けたケースでは、建築まで進んでるいないにもかかわらず途中解約をした場合は違約金として建築代金の10パーセントがかかる、といった契約もあった。

建築費用が3000万円とすると、300万円もの高額な違約金が発生する。つまり別の建築会社に変更するには300万円が必要ということだ。300万円かかるとなれば、契約を中止するかどうかの決断には大きなプレッシャーとなる。結果的に納得のいかない設計を飲まざるを得ないという事態になってもおかしくない。

建築の契約に潜む問題とは?

なぜこんな事態になるかというと建築の請負契約にカラクリがある。

本来であればまずは設計の契約をし、設計の契約が終了した段階で建築請負の契約をすべきだが、多くのハウスメーカーでは最初から建築請負契約の締結を求められる。建築請負契約には、メーカーで作成した仮の設計図がついており、とりあえず仮の図面のとおりの建築をしますよ、という契約になっているのだ。

途中で契約を解除することは、たとえ設計が途中までしか進んでなくても「建築」の契約を解除する、という扱いになる。そして違約金としては建築代金の総額から算出されることになるので、当然違約金は高額となる。

トラブルの多さは以前から指摘されていた。

建築請負契約の中には不透明な清算のルール、高額な違約金が発生するものがあるため、消費者団体から是正の申し入れがなされる事態となっていた。

例えば積水ハウスでは、消費者団体からの申し入れを受け、以下のように契約内容を修正している。

改定前
「甲(注文者)の都合または甲(注文者)の責に帰すべき事由により、この契約が解除されたときは、契約手付金は違約金として乙(積水ハウス)が収受し、乙(積水ハウス)はその返還を要しないものとします。」

改定後
「甲(注文者)の都合または甲(注文者)の責に帰すべき事由により、この契約が解除されたときは、乙(積水ハウス)は甲(注文者)に対し、解除時点までに履行された設計業務の割合に応じた設計業務報酬額に加えて、乙(積水ハウス)に生じた損害額を請求できるものとします。」

このような契約内容ならば解約のタイミングまでに行った業務の清算をすればよいと読めるが、契約条項に改められたからといってトラブルがなくなるわけではない。

契約書をどのように「適用」するかは業者次第?

よく相談がある事例で次のようなケースがある。

営業マンの強引な勧誘に根負けし押し切られる形で契約をしてしまったものの、後になって後悔し、数日後に契約を解除した…というケースで、ハウスメーカーからは設計報酬はほぼ全額徴収するなどと言われトラブルとなるケースだ。実際にあった例でいうと、「設計報酬として契約書に記載した金額の70パーセント分は支払ってもらう」と主張されてトラブルになるケースもあった。

注文住宅は注文者の意向を設計に反映させるべく打ち合わせを繰り返しながら進めていくものだ。まだ何もしていない段階であるにも関わらず、設計業務の70%は完了しているという主張にびっくりするが、業者側の言い分の内容として「契約書に仮の図面を付けている。仮の図面を作った以上、設計の仕事の70%は完了しているでしょ?」ということになる。

この業者の言い分は2つの点でおかしい。

一つは、契約書にサインをして受注内容を確定してからスタートするべきはずが、契約締結前に行っていた行為に後出しじゃんけん的に報酬を設定していること、もう一つは「解除時点までに履行された設計業務の割合」はあくまで業者が指定するもので自由に決められてしまうことだ。

契約の準備段階で行ったことに報酬が発生することもあるにはあるだろうが、あくまで例外的なもので、契約書にサインをしたら業者が主張する金額をいくらでも取っていいというのはやはり問題だ。

契約の清算ルールを明確に

建築の契約について取り上げたが、建築の段階まで進んでいた段階でキャンセルをしているのであれば、仕入れた建築資材などが無駄になる…という理由で建築費用に対する割合で違約金が発生するのも納得がいく。しかし、設計が途中の段階ではどのような建物となるか具体的にわからないのだから、違約金として建築費用まで幾らかよこせと言われると、注文者からすれば「え?」となるだろう。 注文者のこのような疑問に答えられるように明確な清算ルールを作る必要がある。

また建築の契約を取り付けることを優先するあまり、「設計」の業務が見えにくくなっていることもトラブルの一因となっている。

設計会社に設計を依頼し、建築会社に施工を依頼するようなケースでは起こりえない問題だ。もちろん、建築会社が設計もやっているような場合は設計費用を安く抑えることができるなどのメリットはあるのだろうが、そうであればなおさら分かりやすい清算ルールが求められる。

注文住宅の契約は消費者にとっては一生に一度あるかないかのもので、そうそう経験するものではない。トラブルになってしまったあとで「今回は勉強料を払ったと思って諦めよう」とすんなり受け入れられる金額でもない。

契約の清算ルールは合理的な説明のつくもので、かつ分かりやすく、ということを業界として徹底する必要があるだろう。

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