高齢者の悪質商法被害を防ぐには?成年後見制度は機能するか?

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年末年始にかけて悪質商法による被害が多発する時期だ。各自治体が注意を呼び掛けている。私が住んでいる福岡県でも12月は「悪質商法撲滅月間」と位置付け、啓発活動を行っているところだ。


この悪質商法について、本年8月、国民生活センターから消費生活相談の概要が発表された。それによると特徴的なのは、高齢化が進んでいる、という点だ。2004年の調査のときより、2.7倍にもなるとのことだ。高齢化が進んでいくなかで日常生活におけるトラブルも高齢化が進んでいるといえる。


高齢者のトラブルをどのように防ぐか。被害が増えるこの時期に考えてみたい。


高齢者がまきこまれるトラブルとは?

70代以上の高齢者が巻き込まれるトラブルとして多いのが、電話による勧誘を受けて契約をしてしまうパターンだ。


「先日、お申込みいただいた商品の準備ができましたので、お送りさせてもらいます」などと業者が電話をかけてきて、その後、健康食品を勝手に送りつけてくるという手口がある。健康食品については、次々販売といって、同一の会社ではなく違う会社が同じ高齢者を狙って次々と商品を売りつける…というケースもある。


そのほか金融商品を高齢者に売りつけるトラブルも依然として多い。「劇場型勧誘」などと言われ、いろんな立場の人を装って入れ替わり立ち替わり電話をかけてきて信用させてしまう…というやり口だ。


このような業者は、短期間のうちに会社をほったらかして行方をくらませてしまう。足がつきそうになると、代表者を変え、別会社として同じような悪質な勧誘を行うのだ。このような悪質な取引を持ちかける業者に対して一度お金を支払ってしまうと、これを取り戻すのは非常に難しい。相手の所在が分からないケースも多く、また財産を差し押さえようにも手がかりがない…ということもあるからだ。


高齢者の方々に注意を呼びかけるだけでは問題は解決しない。

このような被害を防ぐために高齢者の方々に向けた情報の発信はとても大切だと思う。悪質業者の手口は、日々新しくなっていく。その手口を事前に知っておけば、「ひょっとしてこれは詐欺じゃないか…」と騙される前に気付くこともあるだろう。


しかし、これだけでは問題を防ぐことはできないとも思う。


平成22年のデータであるが、厚生労働省の「認知症高齢者の現状」と題する資料によれば、介護保険を利用している認知症高齢者は280万人になるとのことだ。そのうち140万人は老人ホームなどには入所していない、居宅で生活をしている人であるとされる。認知症高齢者は年々増加しており、平成27年には345万人に達すると推計されている。居宅で生活する認知症の高齢者ももちろん年々増加するだろう。

認知症によって日常生活で必要な契約を判断する力が衰えてしまっている場合、詐欺的な勧誘をはねのけるのは難しい。契約をしてしまったことすらわからなくなっていることもあるだろう。核家族化が進んでいるなかで、認知症高齢者が日中に自宅に一人でいるということも珍しくない。このような方々に注意を喚起するだけでは、問題の解決…とはいかないはずだ。


認知症高齢者の悪質商法被害を成年後見制度で防げるか?

高齢者の悪質商法対策として、とくに在宅の認知症高齢者の悪質商法の被害を防ぐために成年後見制度の利用をしたらどうか、という意見を耳にすることがある。


成年後見制度とは、認知症などで判断力が落ちてしまった方にサポート役を付ける。サポート役には、判断力に応じて3段階ある。

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ある程度自分で判断をすることが可能である場合は、「保佐人」「補助人」などがつくことになるだろう。


本人が行った行為でサポートの対象となっている行為は、サポート役があとで取り消すことができる(もちろん契約内容による)。取り消しをするとは、つまり最初からなかったことにできるということだ。取り消しをしてしまえば、例え騙されてしまったとしても高齢者を救うことができるのではないか、というわけだ。


しかし、悪質商法には多様な商品・取引の形態があり、うまくサポート対象の取引に該当するかどうか、という問題はある。


またこの成年後見制度は、悪質な業者にひっかかってしまった場合にどのようにお金を取り戻すかという、あくまで事後的な対処の手助けとなるものにすぎない。先ほども述べたように一度支払ってしまったものは取り戻すことは難しい。


成年後見制度の利用というのは、認知症高齢者の悪質商法の被害の救済について有効な制度の一つではあるが、これだけでは十分な予防策にはならないのだ。


高齢者に携わる方々の気づきを生かす

悪質商法を行う業者は、最初から騙すつもりなのだ。その手口は年々巧妙になっている。これを「気をつけましょう」と呼びかけるだけでは被害を防止することは難しい。これからますます増加が見込まれる認知症高齢者については特に難しいだろう。


被害をなくすには、違法な業者の取り締まりを徹底することこそが一番だと思うのだが、お世辞にも検挙率が高いとは言えない現状がある。


このような状況で私たちに何ができるか。悪質商法に対処するには、早期の発見、早期の対処がとても大切だ。


高齢者を取り巻く方々が日ごろから連携を取っておく。高齢者を取り巻く方々とは例えば、ヘルパー、ケアマネージャー、地域包括支援センターの職員、広く言えば地域の方々も入るだろう。ここに司法書士や弁護士などの法律専門職が加わっておくと、迅速な法的対処ができる場合がある。


通信販売などで購入するものが日常必要な量を超えて多い…、日頃見かけない物品を購入している…これらは高齢者に何か異変があったときのサインかもしれない。


異変のサインを早期に発見ができれば、被害を最小限度に食い止めることができることもあるだろう。被害回復という面に目を向けると、悪質商法を行う会社の行方が分からなくなる前に捕まえることができる可能性が高まる。


このように高齢者を取り巻く方々の連携の中で、悪質商法被害の傾向をつかんでいきながら、被害を生まない・繰り返さないような対応策を一緒に考えていく。本日紹介した成年後見制度も、単独では十分ではないかもしれないが、この連携の中で力を発揮するものだ。


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