俳優田中圭さん主演「びったれ!!」にみる司法書士と少額訴訟の使い方

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司法書士を主人公としたドラマ「びったれ!!」が始まった。私が事務所を置く福岡では、なじみのない言葉だが「びったれ」とは、広島弁で小心者という意味だそうだ。


知られていない司法書士という仕事


ドラマの中で田中圭さんが演じる主人公が「仕事は司法書士です」と自己紹介するものの、「何をしているお仕事ですか」と返されるシーンが出てくる。

数年前、私が初めてスタッフを雇ったときのことだ。面接をした経験がなかった私は、何を訊いていいのかよくわからなかったので、とりあえず「司法書士って仕事を知っていますか」と尋ねることにした。こう訊くと面接に来る方はあれこれと説明してくれるのだが、司法書士の本来の仕事にかすりもしない方が大半だった。

もちろん司法書士業をちゃんと知っているかどうかということは、雇用する上でどうでもよかったので(こちらは回答の内容ではなく受け答えの仕方を見ているのだ)、雇い入れることになったスタッフも面接のときには全く違う資格業の説明を一生懸命してくれた人だった。

面接をしてみて改めて思ったのは、ドラマのとおり、司法書士という仕事はまだまだ知られていないということだ。弁護士や行政書士などの仕事は、散々ドラマをやっていることもあって知名度は高いのだが、司法書士となるともう一つだ。

司法書士の仕事を全く知らずに勤めることになったスタッフだったが、勤務を続けるうちに、あるとき私にこう言った。

「及川さんと一緒に仕事して思いますけど、知り合いに司法書士が一人いると、意外と便利かもしれませんね!」と。

手前味噌なのかもしれないが、私もそう思う。司法書士という存在を知っておくと何かあったときには意外と使い勝手がよいはずだ。今回放送の始まった「びったれ!!」を一緒に見ていきながら、司法書士の携わる仕事を解説していこう。


少額訴訟は便利ですよ…は本当か?


今回のドラマでは、勤務先会社を解雇されてしまった人を支援して、残業の割増賃金を請求するという内容だった。

ここで「少額訴訟」というものが登場する。「少額訴訟」とは60万円以下の事件について、簡易な手続でスピーディーに解決を目指そうとするものだ。少額訴訟は原則として1日で裁判が終了する。何度も裁判に出廷をせずに済むので解決まで何カ月も裁判をしなくていい…というわけだ。

ただ、紛争の解決に少額訴訟を選択するか否かは、少額訴訟というシステムをもう少し知ってから決めた方がよい。私の事務所に相談に来る方から「少額訴訟を自分でやってみたいけど…」と相談を受けることがあるが、まず少額訴訟の特徴を説明することにしている。そのうえで本当に少額訴訟を選択するかどうかを改めて考えてもらうのだ。


少額訴訟とは、逆にいうと「一日で終わってしまう裁判」である。

少額訴訟というものは「一日で終わってしまう裁判」ということもできる。一日の裁判の期日に自分の主張を言い尽くし、さらに証明まで尽くす必要がある。

少額訴訟として裁判を起こしたはいいが、相手がどのような反論をするかわからない…ということも珍しくない。事前に何も返答をしてこなかったのに、裁判の期日に相手がひょっこり出廷してきてその場ではじめて自分の主張を述べるかもしれない。そうなると相手の言い分に備えるだけの時間がないのだ。自分の主張を言い尽くせずに終わってしまうこともある。

少額訴訟というのは、一日で終わってしまう裁判であるので、裁判の日を迎えるまでにどこまで準備ができるかがポイントとなる。裁判所も事前に争いとなるポイントを整理したり、持参してほしい証拠書類などを指示したりしてくることがあるのはそのためだ。

少額であるからといって事案が簡単だ…ということは決してない。少額訴訟で満足のいく裁判ができるかどうか、慎重に判断する必要がある。

スピーディーに訴訟が終わるというのは少額訴訟の最大のメリットである反面、デメリットでもあるのだ。


少額訴訟は「控訴」ができない


少額訴訟というのは控訴ができない。裁判官も人であるので判断を誤ることがある。そのとき上級の裁判所の判断を改めて仰ぐことができないのだ。

少額訴訟については、裁判官の判断に対する「異議申し立て」という手続がある。少額訴訟の内容に不服がある場合は、改めて裁判を求めることができるのだが、上級審ではなく同じ簡易裁判所で裁判が行われる。現行の制度では、少額訴訟で判決を出した裁判官がそのままもう一度異議後の裁判を担当することも問題ないとされているのだ。

通常の訴訟のようにしっかりとした審理をしてもらう手続が保証されているわけではないということを知っておかなければならない。


手続の特徴をよく理解したうえで手続きを選択する。


少額の事件であったとしても解決に向けた手続はいろいろとあり、それぞれ一長一短がある。以前、情報力の差を埋めることが大切であるという記事を書いたことがあるが、これは裁判の手続きにおいても同じだ。自分の直面したトラブルについて、それぞれの手続の特徴を理解して、自分にあった手続の選択をするべきだ(「裁判官も巻き込まれる賃貸住宅の清算トラブル」)。

問題の解決に向けて情報収集を行うにあたり、今回のドラマのように司法書士のサポートを得るというのも一つだ。

私の事務所には「自分で訴訟を進めたいがアドバイスだけはして欲しい」という方が来ることがある。そのような方には訴訟の進行状況に応じて継続して相談を受けることがある。裁判では何がポイントとなるかを一緒に検討し、必要に応じて裁判所に提出する書類の書き方をアドバイスすることもある。

司法書士は、簡易裁判所の事件(争いとなっている金額が140万円以下の事件)であれば、弁護士と同様に法廷に立つこともできる。訴訟を任せたい…という方には、今回のドラマのように代理人として支援をすることもある。

このように司法書士の利用方法は様々なのだ。

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