家族で介護を頑張ると相続分がアップする?(司法書士及川修平)
相続に関する法律の改正は約40年ぶりことで、改正が検討されているポイントは様々だが、その中で、家族で行った介護を相続の場面でどう評価するか、という点について改正が検討されている。
「遺産相続を巡っては、介護に関しての制度変更も言われている。これまでの制度では、介護に尽くしたけれども相続する権利がなくて一銭ももらえず、不公平だという声もあった。今回の改正案では、こうした介護に貢献した親族も新たに金銭を請求できる制度を設けようという内容も盛り込まれた。」(どう変わる?相続制度…自宅は、介護者には)日テレニュース24 1月17日配信
例えば自宅で長男夫婦と長年同居していた男性。晩年には身の回りのことをするのも介助が必要だった。男性の妻も年老いて介護をすることが難しい。そこで長男の妻が日常的に男性の介護を頑張ってきた。長男の妻の介護は日々の食事や排せつのお世話、入浴などの手伝いにまで及んだ。長男の妻は、外に仕事に行くこともできず献身的に付き添っていた…。
このような男性が亡くなったとして、長男の妻は相続人ではないので相続権がない。それまでいかに献身的に介護をしてきたとしても全く報われない、これじゃあんまりではないかというわけだ。
改正案の内容とは?
このような不公平感を解消するため、改正案では、相続人ではない親族が無償で介護を行なったことでより多くの財産を残すことができた…といったような場合には「特別寄与料」なる金銭の請求ができるようにするという案になっている。先ほどの例でいえば、これまでの法律では長男の配偶者は相続人にはならないので一銭のお金の請求もできなかったのが、今後は請求をすることができるようになる、ということだ。
これまでの法律では、相続人であればこのような金銭の請求が認められてきた。「寄与分」というものだ。これを相続人ではない親族にも認めていこうというわけだ。
こうみると、家族で介護を頑張ると相続財産が多く手に入るのかな…というイメージが湧くだろう。
果たして「特別寄与料」とはどのようなものだろうか。
介護を頑張ると相続分はアップする?
「特別寄与料」というものは新しくできる制度なので具体的には制度がスタートしてから…ということになるのだが、現在の法律でもこれに近いものがある。先ほど紹介した「寄与分」言われるものだ。「特別寄与料」もこの現行の「寄与分」と同様に算定をするものと思われるので、「寄与分」の算定を例に具体的に見てみよう。「寄与分」が認められるには相続人の貢献によって、相続財産が増加した(または減少を防いだ)ということが条件となる。
先ほどのように自宅で付きっ切りで介護をしたというような例でいえば、その分、介護ヘルパーを雇わなくて済む。その分支出が減ったわけで、つまり相続財産の減少を防いだわけだ。
「寄与分」は具体的な介護の度合いや年数に応じて、実際に相続財産の減少を防ぐことができた金額をベースに算出される。
このように見ていくと、「寄与分」とは、介護などを頑張ったからといって、ざっくり相続割合がアップして得をする…というものではないということがわかる。
介護は家族がするべきか?
このように今回改正が予定されている法律は、介護などを頑張ってきた親族の労働の程度に応じて金銭的な補償をしようという趣旨で創設しようとしているもので、単純に家族で介護を頑張ると相続割合がアップするというものではない。改正案の議論を続けていた法制審議会でも、介護を頑張ると相続の場面でメリットとなる…というような誤ったメッセージとならないようにという議論は散々なされてきたところだが、ニュース記事のコメント欄などを見ていると、「介護は家族でやるべきということ?」というような趣旨のコメントが散見された。
今回の法律の改正で何を目指す?
介護といえば、近年、介護休業法という法律が改正され、いわゆる介護によって離職してしまう者を防ごうという取り組みがスタートしている。これは、従来の制度では介護を理由とした休職を一回限り最長93日まで認めるとされていた制度であったものが、3回に分けて取得できるようにする改正だ。
例えば、自宅での介護サービスの導入をする際にまとまった休みを取る、施設入所が必要となった際には施設探しや契約をこなすためにまとまった休みを取る…といった具合に必要な時期に休みを取りやすくして、介護離職を防ごうとするものだ。
これは休業を取りやすくして自ら自宅で介護をするという者を支援するという法律ではなく、取得しやすくした休業期間で介護サービスの契約などをうまく整え、介護と仕事をうまく両立できるようしようという作り込みになっている。
時代ともに家族と介護の関わり方は大きく変化してきている。自分一人で抱え込まず、介護のプロをうまく使いながら、ともに生きる時代を目指そうというわけだ。
家族と介護の関わり方はどうあるべきかという視点はあるか?
これまでの「寄与分」の例を見ていると、施設などに入所している方を度々見舞い、週に一度は洗濯物を回収して送り届けていた…というレベルでは一般的には「寄与分」の主張は難しい。家族としてある程度は助け合って暮らしていくことが想定されているわけで、この程度では金銭的な請求をするほどではない、ということになってしまう。これは今回新しく創設しようとしている「特別寄与料」でも同じことが言えそうだ。
介護という場面で「寄与分」や「特別寄与料」の請求ができる場面とは、よりディープな関わりのあるケース、ということになる。
今回の法制審の議論では、現にある不公平感を解消しようとすることに重点が置かれていて、介護休業法で考えられているような、今後、家族としてどのように介護と関わっていくかという視点での議論はなされていない。このような点もニュースコメントの「介護は家族でやるべきということ?」という感覚となって現れてくるのだろう。
ニュース記事にあるコメント欄の意見を紹介したが、このような視点について丁寧な説明がないと今回の改正案の是非について議論は深まっていかない。
今後の議論に注目である。