賃貸マンションで孤独死があったとき相続人や連帯保証人がするべきこと

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日ごろ、業務のなかで賃貸マンションのトラブルに関する相談を受けることが多いが、近年、入居者が物件内で突発的な病気により孤独死をしてしまったというケースの相談を度々受けるようになった。


厚生労働省のデータによれば、65歳以上の者で一人暮らしをする者は、昭和61年当時は全世帯に占める割合は3パーセント程度であったものが、平成27年には12パーセントにも達する(「平成27年 国民生活基礎調査の概況」厚生労働省)。10世帯に1世帯は高齢者が一人で暮らしているわけで、高齢化が加速度的に進んでいることから、この傾向は今度も増加していくだろう。


このような背景もあり、単独世帯で賃貸住宅に暮らす方が物件内で病死をしてしまうケースはこれから増えていくと思われる。


賃貸住宅内で孤独死があった場合、残された相続人や連帯保証人が対応をすることになるわけだが、実はなかなか難しい問題に直面することになる。

 

高齢者の一人暮らしでは何が起こる?

賃貸マンションで高齢者が一人暮らしをしていた場合、どのような生活を送っているだろうか。生活の仕方によっては人と会う機会が極端に減ってしまう人もいるだろう。毎日仕事の行くという人や趣味の集まりがあるなど定期的に行く場所がある人は別だろうが、そうでなければ、突発的に病気を発症し倒れてしまったとき、異変に気付かなれないことが多い。


自宅に一人でいるときに突然体調を崩してしまうと、発見が遅れ、そのまま亡くなってしまい、さらに亡くなったことにさえ気づかれず時間が経過してしまう…ということもある。


このような場合、物件の汚れや臭気などの影響から、通常の賃貸マンションの契約が終了する際とは全く異なる状況となってしまう。


 

高額な賠償金を請求される?

清算について対応を迫られるのは、亡くなった方の相続人や連帯保証人だ。家主から要求は次のようなことが考えられる。


1.部屋の全面改修費用、特別な清掃費用の要求
死後数日経っているケースでは、倒れて亡くなっていたところのフローリングが傷んでいるなど物件が損傷していることがある。そうなると部屋全体を改修しなければとてもじゃないが新しい入居者の募集はできないということで、部屋全体のリフォーム費用を請求されることがある。同様の理由で、専門業者に依頼し部屋全体について特殊な消臭をする費用の請求も考えられる。


2.家賃収入の補償
居室で亡くなっているようなケースでは、次の入居者が入らない、または入ってもらうには大幅に家賃を減額しなければならないとして、家賃収入を得ることができなくなった分を補償してほしいと要求されることもあるだろう。


この家賃の補償については、数年分を要求されることもあり、その金額は高額に跳ね上がることもある。


家主や不動産業者としては、当然このようなケースの解決を急ごうとする。相続人からすると葬儀やその他の様々な手続の対応に追われ慌てふためいているときだろうし、連帯保証人からしても寝耳に水の状況で、莫大な請求額が突きつけられることになるので、ときに紛争に発展してしまうことがある。


 

そもそもなぜこのような請求となるか

そもそも、なぜこのような請求を受けることになるかということだが、これは家主が孤独死のあった物件を「心理的瑕疵」を抱えた物件として捉えているからだ。

「心理的瑕疵」とは、人が心理的に嫌がる状況にあって「問題物件」扱いになることをいう。雨漏りや建物が傾いているというような、目に見える形で損傷箇所があるというわけではないが、キズを抱えた物件というわけだ。


例えば殺人の現場となったような物件がそうだ。


不動産の取引をする場合、殺人事件の現場となったような物件が対象のときは、不動産業者は、購入希望者や賃借を希望する者に対して、あらかじめ告知して説明する義務が課せられている。知ってて告げていないようなケースでは、不動産業者に損害賠償責任が認められることがあるほどだ。

 

病死者の出た物件は「問題あり物件」?

では、今回取り上げている病死の例で、心理的瑕疵のあった例として、補償を求める家主の主張は正しいか。


事案によるが、実は家主の主張が認められないことがある。


これまで裁判で争いとなったケースは多くはないが、過去の裁判例では、殺人といった事件性があるもの自然死とを区別して判断していて、「心理的瑕疵」として扱わないとされている例があるのだ。


人はいずれ亡くなる。生活の本拠として使用するべく賃貸住宅を提供しているのであるからその場で亡くなる可能性は家主としてもある程度予見できることだ、ただ物件のなかで亡くなったというだけで相続人や連帯保証人に賠償を請求することはできない、とされた裁判例がある。


法的な責任が認められるためには、その人に責められるべき事情が必要となる。


賃貸マンションの補修の例で言えば、例えば子供が壁につけた落書きのようにワザと部屋を汚してしまったというようなケース。本来やってはいけないことで部屋を汚したわけだから、当然、責任をとらされる。


しかし、病気で突発的に亡くなったようなケースについては、「突然亡くなってはいけない」というのはあまりに酷で、それ自体では責任を取らされることはないというわけだ。

 

まとめ

冒頭で紹介したように高齢化社会が進むにつれこのようなケースは増加していくだろう。


何を「心理的瑕疵」というかについては、本来、人それぞれで異なるものだ。しかし、いったんトラブルとなれば最終的には裁判所にて法的な判断がされる。裁判所の判断にはその時々の社会の状況も影響を与えるはずだ。一人暮らしをする高齢者が増えていくという状況の中では、人が死を迎える場所が自宅であることは特別なことではない、それ自体は「心理的瑕疵」とはしないと裁判所も考えるのではないか。


孤独死があった物件の清算で賠償義務があるかどうかは、個別の事案ごとに考える必要がある。相続人や連帯保証人の立場になった方は、先ほど紹介したようなケースを元に、亡くなった入居者の状況を踏まえて、自分がどこまでの負担をするべきか、冷静に不動産業者と協議を進め対処していく必要があるだろう。


また日頃からできることもある。


連帯保証人については特に気をつける必要がある。連帯保証人の責任の範囲は広く、日常的な家賃の滞納から部屋の修繕費の負担まで賃貸マンションの契約全体に及び、いざというときは突然自分に降りかかってくるからだ。


連帯保証の契約をした後に入居者と疎遠になってしまい、どのような生活をしているか知らないという人は意外と多い。


頻繁にではないにしても、度々は連絡を取り合うなど、仕事や体調といった入居者の日常を日頃から確認をしておくことも大切だろう。


 

 

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