捨印は押しても大丈夫? (及川修平 司法書士)

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年末も押し迫り、仕事納めに向けて何かと忙しい時期だが、年内に終わらせてしまおうということで様々な契約ごとをする機会が増える時期でもある。

契約書類の作成をする中で「捨印」を求められた経験が一度や二度はあるだろう。

「捨印」は危ないので絶対に押さないほうが良いなどと言う話も聞くが、果たして捨印は押しても大丈夫なのだろうか。

「捨印」ってなに?

「捨印」とは契約書の枠外などに押印をするものをいう。契約書の内容の誤字があってそれを訂正したい場合、本来であれば、相手方に誤字を訂正してもらった上で訂正箇所に個別に印鑑を押してもらうべきところだが、あらためて印鑑をもらい直すということは面倒なので、捨印を押してある箇所に「〇〇字訂正」などと付記して訂正印の代わりにする、といったものだ。

「捨印」を使ってこのような契約書の訂正が可能なのであれば、後になって契約内容のどの部分でも変更は可能となってしまうのではないかと不安に思うかもしれない。「捨印」を押すのは白紙委任状を渡してしまうのと同じだ、などと言われることがあるが、このような不安から来ているものだろう。

では「捨印」があるとどのような訂正も可能なのだろうか。

「捨印」で何でも訂正できるわけではない

もちろん「捨印」とは万能なものではなく、「捨印」による訂正が認められないケースがある。当事者がもともと意図していない内容に変更されてしまう場合だ。

契約書とは、もともと当事者間の約束事を書類にまとめたものであるので、いくら「捨印」があるからといって、契約書の作成当時に意図していなかった内容に変更することまでを委ねるものではないからだ。

「捨印」の効果が争われた裁判例を見てみると、金銭の借用書の違約金利率の記載について、契約書作成当時は空欄になっていたものを後日追加して書き込み捨印で処理をした…というケースについて、「捨印」による書き込みが認められなかったという例がある。

これは契約内容の「訂正」の範疇を超えもので、言うなれば「新しい契約」というわけだ。
「新しい契約」となるのであれば、新たに契約書の作成をし直すか、少なくとも相手方に直接記載してもらうなど相手の意思が明確に残る形をとらなければ有効にはならないということだ。

それは「訂正」の範囲か、「新たな契約」なのか?

「捨印」による修正が「訂正」の範囲として可能か、それとも「新たな契約」となるものなのか、それはその事案ごとに考えるしかない、ということになる。

自分が当初意図していない形で契約書が作り変えられてしまった場合、契約書が有効となるかどうかはともかく、有効性をめぐってトラブルに巻き込まれてしまう可能性は十分にある。

そのような意味では、捨印は白紙委任状と同じだ…というのは言い過ぎかもしれないが、曖昧さを残すことは確かだ。

「捨印」を押さずに済めばよいが…

「捨印」によって何でも訂正が許されるというものでないが、曖昧さを残すものではあるので、極力押さずに済めばそれに越したことはない。しかし、相手によっては「捨印」を強く求めてくることもあり、「捨印」を押さないと話が前に進まないという場面はあるだろう。

契約書面の控えをもらえないような場合は、作成当時の状況がわかるようにコピーをもらっておくというのも一つの方法だ。

文字の訂正ではなく、あとで契約条項を書き加えたりブランクを埋めたりしているような場合は、契約書作成当時から記載されていたものか、後から追加したものか、わからなくなるというこさえある。

本来であれば、契約書作成当時にすべて訂正をしておくべきなのだろうが、状況の中でそれができない場合には、不要なところに×印でもつけておいて、そのコピーをもらっておけばいい。少なくとも契約書作成当時にはブランクを埋める意思はなかったことがある程度は明らかになるだろう。

契約書の作成にあれこれ注文を付けていると嫌な顔をされるかもしれないが、相手任せにしないという姿勢がトラブルを防ぐ一番の方法だ。

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