「クローズアップ現代」にみる、失敗しないアパート経営とは?

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先日、NHKの「クローズアップ現代」で賃貸住宅の問題が取り上げられ、無計画な賃貸住宅の建築にスポットが当てられていた。人口や世帯数が減少していくなか、賃貸住宅の建築が現在のペースで進んでいくと、約20年後には空室率が40パーセントを超えるのだそうだ。


相続税対策、土地の有効活用…。様々なセールストークが持ちかけられる不動産賃貸経営であるが、その一つにサブリースというものがある。


サブリースとは、管理会社(多くは賃貸アパートの建築をした会社の子会社など)が、アパートを一括で借り上げる方法だ。


賃貸用アパートの建設業者のセールストークとしては、「サブリースとして一括で借り上げをして家賃収入を保証するので、大家さんとしては賃貸経営上の煩わしい部分に関わらずに家賃収入を確保できますよ…」というものだ。番組では、現在新築される賃貸アパートのうち、約半数はサブリースであると紹介されていた。


実際、賃貸アパート経営をはじめたものの思うように収益が上がらないというケースは少なくないのだが、これはサブリースの契約であっても同じことだ。


サブリースの契約についても、保証されている家賃は当初の数年のみであることが多い。保証の期間が過ぎれば、空室の割合に応じて収入も変動してしまう。これで、先ほど紹介したように空室率が40%を超えるなどという事態になれば、目も当てられない。


番組の中では、見通しの甘いアパート経営の話を「サブリースだから大丈夫」などと言って無理な契約をさせる危険性が指摘されていた。これは何もサブリースを謳う業者が悪いと言っているのではなく、アパート経営にて得られる収益についてのみ語られ、十分なリスクの説明がなされないまま賃貸アパートの建築が進められているケースがあることが問題なのだ。


 

家主は事業者であるのだが…。

アパート経営に乗り出す大家さんはもちろん事業者ということになる。


アパート経営をするということは、巨額の建築費用や建物のメンテナンスに要する費用、空室リスクなどを背負うことになる。事業者である以上、当たり前と言えば当たり前なのだが、はたしてそのようなリスクをどこまで現実的なものとして把握して事業をスタートさせているだろうか。


新しくアパート経営を始める人の多くはそれまでアパート経営の経験のない人たちだ。賃貸用アパートを建築する業者と大家さんの間には大きな力の差がある。


この力の差が埋められることのないまま賃貸アパート経営がはじまってしまうと、大家さんにとっては「こんなはずではなかった」問題が顕在化する。大家さんとしては、事業者としてこのような問題を自己責任として受けて立つことになってしまうのだ。


 

このまま「何でもあり」の賃貸借市場ではまずい。

以前、『「敷金返還がスムーズになる」ってホント?』と題して、入居者の視点から、トラブルの多い賃貸住宅の問題は、現在議論の続く民法改正がなされただけでは解決しない、賃貸借市場の環境を抜本的に変えないと解決しない問題だと指摘した。


家主サイドから見ても、賃貸借市場の環境を抜本的に変えないといけない状況にあるということだ。


現状ではアパート経営を持ちかけるビジネスにまつわる規制はない。自由に競争できることと無秩序とは全く異なる話だ。適正な市場を作り出すには一定の縛りが必要なのだ。大家さんも事業者だからという理由ですべてを「自己責任」という言葉で収めてしまうことには無理がある。


話が少しそれるようだが、以前、会社を狙った悪質商法として消火器薬剤の訪問販売が問題となったことがある。「消防署のほうから消火器の点検にきました」などと会社を訪れ、会社に設置されている消火器を集め、法外な薬剤交換費用などを請求する…といった手口だった。


そのような業者は「消防署がある方角から来たといっただけで消防署の人間だなどと詐欺的なこと言った覚えはない」などと笑い話のような言い訳をする。そして「そちらは会社であって消費者じゃないのだから、契約の解除なんてできませんよ」と言いだすのだ。


実はこのケースでもクーリングオフが認められる。クーリングオフと言えば、消費者でないと使えないと思われがちだが、そんなことはない。法律では「営業のためにする契約」でない以上このような会社が取引をするケースでも、不当な契約から保護するためにクーリングオフを認めている。


問題なのは「不当な契約勧誘の手口」なのだ。会社や事業主であるということだけで、全てが自己責任だから泣き寝入り…というわけではない。


このように会社や事業者であっても、契約勧誘の内容や手口によっては、一定の救済措置を設ける法律は現に存在する。


賃貸用アパートを建築する業者と大家さんの間には大きな力があることを前提に、不当な勧誘とならないよう、それを是正する規制は必要だ。


経営の不安定な家主が増えれば、入居者の住環境の悪化を招く。例えば物件に不具合があるのにも関わらず、家主が費用負担を渋り、修繕が受けられないという事態が発生することが予想される。入居者の住環境の水準を維持するという視点からもやはり規制は必要であろう。


 

キーワードはやはり「情報力の格差を埋めること」

現状では何らの法規制もない状態であるが、これから賃貸アパート経営をしようとする際はどうすればよいか。


これまで書いてきたとおり、やはり「情報力の格差を埋めること」だ。


これは、以前「裁判官も巻き込まれる賃貸住宅の清算トラブル」という記事でも書いたことだ。この記事では「裁判官であっても世の中のすべてに精通しているのではない、現に賃貸住宅を退去した際の清算事件を担当している裁判官もリフォーム費用の中身なんて全然知らないのだ」ということを指摘した。


情報力の格差は社会的な地位で決まるものではないし、事業者間でもそれは存在するものなのだ。


相手の言っていることが正しいことなのかどうかを判断するには、相手から与えられた情報だけでは判断できないということをまずは知る必要がある。


情報力の差を埋めるために第三者の専門家の意見に意見を訊くというのも一つの手だ。私の事務所でも不動産の取引をする際に実際にあった裁判例などを紹介しながら注意点をアドバイスするということもやっている。アドバイスをするときは「いろんな人の意見を訊いてみるのもいいですよ」と他の事務所での相談を促すこともある。そのようにして情報収集を進めていくことを勧めている。


絶対失敗しない投資というものは存在しない。リスクを把握して、自分で判断する力を養うことから取引は始まるのだと私は思っている。


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