それでも続く賃貸住宅の保証人問題
社会人になると目上の人から「保証人にはなるんじゃないよ」などと注意をされることがある。しかし、このような注意をする人でも、賃貸住宅の保証人となると意外と簡単になってしまうものだ。
120年ぶりに民法(身近な取引に関する法律)が大改正されようとしている。以前、「結局、敷金は返ってくるのか?」と題して、賃貸住宅の問題を例にこの法律の大改正について書いた。今日は、賃貸住宅の保証人の問題を取り上げて、この法改正を考えてみる。
意外と怖い賃貸住宅の保証人。法律改正でどう変わる?
賃貸住宅の保証人は入居者が負担する全てのものを保証するという契約になっていることが多い。例えば家を借りたまま行方不明となってしまった入居者がいる場合は、滞納している家賃だけでなく、明け渡しの裁判費用、部屋の家財道具の撤去費用などもすべて保証しなければならない。
また契約上、途中で保証人を辞めることはできないとされている。
このように賃貸住宅の保証人は、保証する金額には制限がない上に一度保証人になってしまうと簡単には解約できない、とても怖い契約なのだ。
これでは保証人の負担が重過ぎるとして、法律を改正しようとしている。
改正案では、保証人が負担する金額の上限を定めなければならない、とされる。この上限を極度額という。例えば、極度額を50万円と設定しておくと、滞納家賃やその他の負担すべてあわせて50万円まで保証すればよい、これを超える金額は保証しなくてよいということになる。
保証人としては、契約の時点で自分がいくらまで負担をすることになるか明確となる。現在のように無限に保証人として負担をするということはなくなるのだ。
私の事務所にも賃貸住宅の保証人から相談が持ち込まれる。なかには、入居者が家賃を支払わないのに大家さんが賃貸住宅の契約を解除しない、保証人としてずっと家賃の支払いをさせられていて困っている…などという相談もある。法律の改正によって、このような問題は解決されるだろう。
保証人をめぐる問題は新たな局面へ 保証人をビジネスとして引き受けてくれる会社とは?
法律が改正されると賃貸住宅の保証人問題がすべて解決…というわけでもない。近年、賃貸住宅の契約をするにあたり、保証会社の契約が条件となることが増えている。
保証会社とは、ビジネスとして賃貸住宅の保証人となるサービスを提供する会社のことだ。
保証会社は保証人となるだけではない。
入居者が家賃滞納を繰り返した場合、保証会社が賃貸住宅の契約を解除できる…という契約が盛込まれていることがある。
大家さんにとって家賃滞納を繰り返す入居者への対応は頭の痛い問題だ。この問題に備えて、保証人という立場ながら、保証会社が、入居者と大家さんとの賃貸住宅の契約を解除できてしまうという契約だ。
保証会社というと数年前、家賃の支払いをしない入居者宅に侵入して家財道具などを運びだし、ドアの鍵を開かないようにして締め出しにかかる…なんていうセンセーショナルな事件もあった(今はさすがにそんな強引なことをする会社は見聞きすることはないが…)。
このような事件が起こるということはどういうことか。
保証会社は、これまで大家さん(大家さんから委託を受けている不動産業者)が手を焼いてきた明け渡しの業務を請け負うという新しいサービスを提供することで、不動産賃貸ビジネスに参入してきたということだ。
帝国データバンクの2014年のデータによると、家賃保証業の総収入高は2008年と比べて2.3倍にもなる。このようにビジネスとして保証人となる会社というのは、賃貸住宅に関する分野を中心にこれからも拡大していくはずだ。
ビジネスとして保証人となる会社の問題点は?
保証人を引き受けるビジネスに問題はないのだろうか。
私の事務所に持ち込まれる相談のなかには、退去時の清算のトラブルについて保証会社が登場するケースがある。
入居者が賃貸住宅を退去した際、大家さんと原状回復費用の支払いをめぐってトラブルとなることはこれまで書いてきたとおりだ(「結局、敷金は返してもらえるのか?」 「裁判官も巻き込まれる賃貸住宅の清算トラブル」)。
入居者は、原則として、通常の使用による汚れについては原状回復費用の負担をしなくてよい。この支払いをめぐって入居者が大家さんとトラブルになっている最中に、保証会社が大家さんの求めに応じ、保証人として支払いをしてしまう。
保証会社は保証人として立替えた費用なので支払ってほしいと入居者に請求する。入居者としてはもともと支払いしなくてよかった費用だ…としてトラブルになるのだ。
この費用の支払いをめぐって、保証会社が少額であっても訴訟まですることがあるようだ。
結論からいうと、入居者は保証会社の請求に応じる必要はない。支払う必要がないものを保証会社が勝手に支払ってしまっただけのことだ。保証会社が大家さんと清算をすれば済む話である。しかし入居者がよく分からずに支払いに応じてしまっている例は多いと思われる。
保証会社は、親族が保証人となってくれているケースとは違い、入居者の味方にはなってくれない。
大家さんとしては早急に原状回復費用の支払いを望む。保証会社としては、顧客獲得のため、大家さん(大家さんが委託をしている不動産業者)の利便性に目が向いている。そのため入居者にとっては不利な行動を起こすことがある。家賃の支払いをしない入居者の部屋に鍵をかけてしまうということも現に起こったのだ。
保証会社については、まだ十分な議論がなされていない分野である。
原状回復費用の問題は、保証会社が保証人として大家さんに支払をしてしまえば、大家さんの手を離れ、保証会社と入居者との問題となる。保証会社が入居者に対して交渉や訴訟をすることが可能となる。
原状回復費用をめぐるトラブルは大家さんにとって煩わしい問題だ。大家さんに代わって交渉や訴訟を行うために、大家さんに保証人として支払をする保証会社がいても不思議ではない。
ビジネスとして保証人になる会社の登場は、「保証会社」と「入居者(保証をしてもらう人)」との間で新たなトラブルが発生する可能性がある。今回の法改正で賃貸住宅の保証人問題はすべて解決…というわけではない。
金銭の貸し借りとは違い、賃貸住宅の契約は内容が複雑なのだ。保証会社と保証をしてもらう立場の入居者との関係には注意を払う必要があるだろう。
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